お侍様 小劇場

   “寡黙なあなた” (お侍 番外編 59)
 

カレンダーが半分ほどシェイプアップを果たした七月に入ると、
高校生は夏休み前の期末試験。
それが終わり次第、採点のための試験休みへ突入するので、
事実上の“夏休み”も同然で。
それでなくとも遊び盛り、
資金がないならないで、リゾートでのバイトだと、
行動力を発揮しまくりの夏を待ち遠しくしているものなんじゃあ…と、

 「思ってたんですけれどもね。」

茎のまんまで売っていた枝豆から、
ハサミ片手に鞘を摘みつつ、
金髪美形の色白な青年が、はふうと悩ましげな溜息をついた。
お膝に据えたザルの中、
手際よく摘まれる緑の莢豆は、
いかにも旬の瑞々しさ、青々しい草の香を立てており。
後始末を考えてのこと、
掃き出し窓を濡れ縁代わりにしてのリビングの端に腰掛けて、
テラスやお庭へ向いて座ってる彼へ、

 「ははあ、久蔵さんはそうじゃなかったと?」

こちらはそのテラスに、
自宅から持って来た折り畳みのスツールを広げて。
家主さんが配達先からもらって来たという、
よくよく熟したとうきびの、皮を剥くのに精出しておいでのお隣さんが。
家庭内のご事情の勝手も多少は判るのでと、
そんな推量を先んじて口にする。
ちなみに、二人が互いに手掛けてる作業は、
お互いへと半分こする約束前提の、いわば“共同作業”であり、

 「まあ、久蔵くんは、
  今時の高校生と一緒にしちゃあいけない子ですしねぇ。」

元来から大人しい子で、
それに、剣道のインターハイだの全国大会だのという、
大きな大会に向けての部活もあるようだから。
夏休みイコール遊びに行くぞという思考や行動にはならぬこと、
多少は予測もしていた七郎次だったろにと、平八が話を振れば。

 「いえ、お出掛けはね、こっちから誘えば大丈夫なんですよ。」
 「はい?」

おやや? 微妙に案じている方向性がいつもと違うような?
そんな気がしてお顔を上げた平八へ。
島田さんチの良妻、
少々蒸し暑い中だというのに、汗ひとつかかない涼しげなお顔へ、
ちょっぴり悪戯っぽい笑みを滲ませる。

 「ドライブでも電車でのお買い物でも。
  一緒に出掛けてくれませんかと言って、
  久蔵殿の側から断られてしまったことって、
  そういえばこれまでに一度もないんですよね。」

だから、よっぽど突拍子のないお誘いじゃあない限り、
自分がお誘いすれば、まま大丈夫だとの自信を見せるおっ母様。
何をやらせても卒がなく、骨惜しみしない働き者で。
傍から見ていて“大概にしなさい”と思ってしまうほど、
何につけ利他的だったお人だが、

 “…ちょっとは自覚が芽生えましたかね?”

言うがままに引っ張り回せるのだとまで思うようなら、
それはそれで鼻につくいやらしさにもなろうこと。
日頃、もっと皆に甘えなさいなと言ってた立場上、
言った通りにしたまでと、胸張って言われやしないか、
ほのかにどきどきしかかったお隣りさんだったが、

 「そんな我儘、きっと学生さんのうちしか、
  聞いてはくれなかろうとは思うんですけれどもね。」
 「……シチさん、シチさん。」

あああ、ダメだこりゃ。
やっぱり判ってなかったところは相変わらずだわと、
平八さんがコケかかったのもまた、立派なお約束。
(笑)

 「じゃ、じゃあ。何が心配なんですか?」

年相応かどうかはともかく、
誘えば遊びに連れ出せそうだというのなら、
問題はないのじゃあないかいなと。
改めての聞きなおした平八へ、
そちら様もまたあらためて、
清楚にして玲瓏な、
すっきりと整ったお顔を引き締めると、

 「妙に黙りこくっているんですよ。」
 「はい?」

  いえね、日頃だってそうそうお喋りなお人じゃないが、
  こうしたいのとか、どうしたの?お手伝いしようか?とか、
  視線やお顔から思うところを読めたのが、

「このごろはあらぬ方を見やってたりするもんだから、
 何を思っておいでかが、掴み難くなっちゃって…。」

そうと言って、はぁあと物憂げな吐息をついたおっ母様へ。
きれいにおヒゲも取り除いた、つやっつやなとうきび片手に、

 「………。」

固まりかけた平八だったのは言うまでもない。

 「どしました? ヘイさん。」

あれれ? 難しいお話になっちゃいましたかね?
そんな呑気なことを言う、天然無添加な美貌の奥方…もとえ、
涼やかで凛とした美貌も目映い、貴公子然とした美丈夫へと向けて。
鹿爪らしくも厳かなお顔になった平八が、
いかにも重々しい口調で言い諭す。

 「…シチさん、そういう時はね。」
 「はい。」
 「こっちから積極的に訊いておやんなさい。
  何を物思いに耽っておりますかと。」
 「えええっ、そんなことしたら干渉されたと怒られますよう。」

それが切っ掛けで非行に走ったらどうしますかと、
まだ豆の鞘のついた枝を玉串みたいに振り回すおっ母様へ。
ええい、いっそ見てみたいものですよ、
あの堅物な美人さんが、どんなツッパリになるものか…と。
半ば“売り言葉に買い言葉”っぽく言い返してやったのもまた、
無理はないんじゃあないかいなと。
そうと感じてしまった人、手を挙げて。
(苦笑)


  相変わらずに過保護なおっ母様、
  以心伝心がもはや当然と思っておいでのうちは、
  親離れはともかく、子離れもまた、うんと先のお話なようでございます。








  おまけ


 「久蔵、お前、矢口からしょーもない雑誌を山ほど借りたって?」
 「あ、ひどいなぁ兵庫さん。メジャーなのばっかですよ?
  この夏、彼女との一線を越えちゃおう特集とか、
  夏こそ決めよう、A to Cマニュアルとか、あとは えっと…。」
 「……お前なぁ。」

   「………。(返す)」

 「え? もう読んだの?」
 「〜〜〜。(否)」
 「こういう路線じゃあなかったの?」
 「…。(頷)」

部活帰りの乗り換えの連絡は、ショッピングモールの中を通過するのが近道で。
同じように試験中らしき、早めの帰宅組だろう制服姿が、
三々五々見受けられる通路を、
ひときわ目立つ風貌の3人が、
そんなこんなと語らい合いつつ速足で進んでおれば、

 「………。」
 「何だ、いきなり立ち止まりおって。」
 「つか、何屋さんのショーウィンドウ見てるわけ?」

先頭切ってたお人が立ち止まったので、
そんな彼へとぶつかるカッコで、次々につんのめりかかったお連れ様。
後続からの非難も聞こえず、
お顔が真っ直ぐ真横を向いてる、金髪赤眼の寡黙な剣豪さんであり。
何へ見とれた反応かしらと、
連れの二人もそちらを見やれば、

 「ウェディングドレスだぁ?」

礼装専門のブティック前だったりするのへと。
何でまたと、首を傾げた兵庫先輩のすぐ後ろにて、
感慨深げな声がして。

 「…ふ〜ん。なかなか難しいトコ目指してるんだねぇ。」
 「え"?」


  ……ちょっと、ちょっとちょっと。
(苦笑)




  〜Fine〜 09.07.09.


  *白状します。突貫で書きました。
   今年の夏こそ、結納まで運びたい次男坊らしいです。
(こらこら)
   シチさんへウェディングドレスを着せたいだけなのか、
   それとも花のような装いさせて、幸せにするからと誓いたいのか。
   どっちにしても、勘兵衛様はしっかりせねば、
   掻っ攫われちゃっても知らないぞ?
(大笑)

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